もう5年ほど開発を続けているプロジェクト、loper。そろそろ再スタートの時期です。
スタートまで5年?と驚かれますが、スタートするより、その後の継続の方がもっと大事ですよね。
今回は縁あって今年創業80年になるイタリアのソールメーカーヴィブラムの眞田くみ子さんにお会いする機会があったので、今後の参考にお話を聞いて来ました!

ヴィブラムは登山家であり、登山ガイドであったイタリア人、ヴィターレ・ブラマーニ(Vitale Bramani)さんが、1935年 アルプス遠征中に自分以外全員の仲間を滑落事故で亡くしてしまった事件をきっかけに、従来の革と釘でできた靴底から、ゴム製の靴底の開発に挑んだことが始まりで創業した世界一のソールメーカー。
女性には馴染みがないかもしれませんが、男性で靴にこだわりのある方は耳にしたことがあるのではないでしょうか?

どういうきっかけでヴィブラムに?

イタリアのモードの専門学校(製靴コース)に通っていて、
コンペにヴィブラムソールをつけて出展したことがきっかけです。

それはものづくりの留学とかですか?
絵が好きだったんで、イタリアに絵を見に行こうかなって、そんな動機でイタリアに行ったの。

いい時代ですね〜。

そうなのかもしれないですね。

ソールメーカーって、ヴィブラム以外にも、いっぱい作っている人たちいると思うんです。同じようなものもあるけど、どうしてヴィブラムが、ブランドとして、ずっと存続し得たのか、そこはきっと哲学だったり、理念が基礎にあると思うんですけど、どんな感じなんですか?
私は社長にも上司にも、一度も怒られたことないんです。
褒められたことしかないです(笑)。

へー本当ですか?
イタリアの企業は、人前で怒るとか、はないですね。もし何か言わなければいけないようなことがあったら、別の部屋で話します。
戒めのようなことはない。数字について文句を言われたことはない。一回もない。この20年。

私は多分、社長にたまたま恵まれて、本当にそれに甘えないで頑張ろうと思いました。甘えないでというか、彼はもしかしたら私の悪いところを我慢してくれているのかもしれない。丸ごと信じているわけじゃないですよ、上に立つ人がね、常に、ポジションが、上でも、下でもない、それぞれの役割がある中でやっていることが違う人たちが尊重し合う姿勢、デザインや、ものづくりが財産だとわかっている所が彼らの素晴らしいところだと思う。
そういう意味では、イタリアに居られたことに本当に感謝してる。
そういう喜びを日々伝えたい、という気持ちでお客さんに日々お話してるんですよ。

そういう意味では、日本の靴業界の人たちの、ものづくりに対する、時間のかけ方(かけられる時間の少なさ)は、残念に思うことがあります。
イタリアって、ものづくりの国なんですよね。ものを作っている人は偉いんです。偉いというか、ものを作る人、買う人と、全部ちゃんとポリシーがあるんです。こう売りたい、こう作りたい。こう買いたい。
でも日本の業界では買う人が一番えらい。その中で高田喜佐さんは、靴の開発の楽しさや、素材の使い方などを提案してくれた、そのレールを引いてくれた存在で、そのレールで羽を羽ばたかせた人もたくさんいるわけです。

右が、創業者のヴィターレ・ブラマーニさんが最初にデザインしたヴィブラムソールの原型。そして左はそれが元になった作られた世界で一番コピーされているヴィブラムのアイコンソール。

日本の靴業界の人、とイタリアの靴業界との違いは具体的にどういうことですか?
日本の靴業界のデザイナーさんは、新しいものを、早く、たくさん生み出さなければならないような、どこか、しいたげられているような印象を持ちます。
開発は、時間がかかるものなのです。
イタリアはものづくりに時間を妥協しない。よく言えば(笑)。
ミラノの大聖堂は、建設に500年かかっています。
時間の経ち方、ミラノと日本(東京)では一秒の長さがさえ違う気がします。
東京は特に人口も多いし、良い職場環境を得ることは、限られていますが、これからの人たちのために、業界も企業も時代に合わせることが大切だと思います。
やっぱり、自己犠牲みたいな、とにかく頑張って、身を粉にして働く、作業場の接着剤などの臭いのを我慢してとかって、今の方達には難しいんじゃないかしら。
特に靴業界は女性も少ないし、海外から帰ってきて、素晴らしいね、かっこいいねってみなさんいうんですけど、実際日本では、人とは違った経験をしている人に対して、冷たいと感じることはあるんですね。
女性や外に出て経験した人をうまく使って、役立てるような精神性が会社にもあればいいなと思います。

なるほど、靴製造に関わる人の環境についてちょっと関連しているのですが、今日持ってきた靴を見てもらってもいいですか?

はい、もちろんです。

ローパーの始まりは、靴製造の工程では、有毒なノリが大量に使われていることにびっくりして、これじゃ、作ってる人、しんどいねって。私たちは、購入者は、そういった背景を知ったら、欲しく無くなるのではないかと思っています。

私たちは、靴製作学校ではなく、プロダクトデザイン科で勉強してきていて、デザインで靴に関わる現状をどう良くできるかという視点で進めています。
今生きている人たちは、何がどう作られていて、どう自分に届いているのかを理解することで、愛着を持ちたいんじゃないかと。
それは、どこから生まれて、どう育っていて、どこでなくなってしまうのか。
それが知りたくて、靴を開発しています。

なるほどね〜。ちょっと、持って見てもいい?結構重いわね。

そうなんですよ〜

履いてみてもいいですか?

もちろんです。

履くとそれほどでもないですね。はき心地もいい。でも靴って履くものなんだけれど、買うときに必ず手で持つのね。そのときに重さっていうのはネックになってくるんです。そこは改善した方がいいかもしれませんね。

はい、少しづつよくしていきます。

そういえば今日、レザーフェアの展示会に行ってきたんですけど、これまでにくらべて今回は少ない印象があります。

衰退の一途ですか?

靴業界は厳しいと思います。かなり。百貨店でもものが売れないし。

まぁ〜私自身も必要以上に欲しくないですね 笑

自分がどうしたいかなと思った時に、まさにその状態。みんな気づいてますよね。それはね。

でも、それを無視するんじゃなくて、じゃぁ、何ができるのか、考えないと前には進まないですよね。

そうだなぁ〜私今何が欲しいかな?
でも、さっき愛着ってお話を聞いて、私にとっての例えば愛着ってイタリアで買った靴を10年以上履いているんですよ。ここまでくると、これ本当に素晴らしいなって履くたびにもう、感謝の気持ちなんです。素晴らしいって。
愛着って、履くことで、自分の歴史が刻まれているものを所有できるというのは自分の生活が乗っかってるわけじゃない。
イタリアで知り合った人で靴やってる人、もともと建築家だったり、アパレルなどの、それこそ面積の大きいものをやってきた人が、靴に転向する人多いです。
靴は、分解したら100個くらいのパーツになって、それぞれメーカーが存在します。この小さな世界に。そのくらいの人々と関わらなければいけない仕事なんですね。靴の場合は、人に会いたくない人にはできない仕事かもしれません。
その企画が成功するかは、企画する人、作る人の心の交流ができているか、仲が良くなくてもちゃんと意思疎通ができているかが一番大切なんですね。

チームがね、一番大事ですよね。

靴は多くの人が関わっているので、商品に乗っかるんです。そういう思いって。それって、買い手に伝わるし、だから靴に関わる人、ブランド、靴資材のメーカー、だれが偉いわけでなく、お互いがお互いをちゃんと大事にしているか。目に見えないものは見えるもの以上に伝わるから、良いこともそうでないことも、その撒いたタネは自分で刈り取るんですよね。
いいものを刈り取れればいいけどね。なんかね、そういうものが現れる業界かなぁと。

なんか〜めんどくさい世界なんですね〜笑

多くの人やモノ、コトのまじわりを繰り返しながら、他者との関係から学びをいただいて、みんな成長していくんですよ、人間だから。
失敗もする。
靴は小宇宙という人がいました、やればやるほど奥深い。
面白い世界だと思いますよ。

お忙しいところお話ありがとうございました。
歴史を大切にしながら、それぞれの役割の人たちがポリシーを持って、尊重しあって物作りをしていく姿勢。
そのために変わらなければいけないことはなんなのか。守っていくものは?
一つ一つ丁寧に納得しながら、進んでいこうと改めて思えました。
頑張るぞー!


お会いした時に眞田さんが履いていたソールと靴の中間のようなビブラムファイブフィンガーズというシューズ。
裸足で歩いているような感覚が得られそうで、履いてみたいなーと思いましたがこの型は現在販売していないようです。
 :(